田舎

 

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用事があって実家に帰った。

夜、おかんにビールかほろよいどっちがいい?と聞かれ、結局両方飲んだ。

普段酒といえばもっぱらストロングか焼酎で、酔っぱらってTwitterでちんこポエム詠んで即死していますとは言えなかった。

 


おかんが寝たあと、テレビでプロレスを観ていた。実家はCS契約しているので割と最高なのだ。

コーナーからボディプレスとかで飛んでくる相手に対して膝を立てて迎撃することを「剣山」と呼ぶが、武藤がムーンサルトをしかけて蝶野の剣山を食らったとき、解説が「武藤一輪挿し〜!!」と叫んでいた。

すごく良いと思った。

世界がこういう良さで溢れたらいいのにと思った。

 


焼酎が飲みたかったので、近くの酒屋の自販機へ歩いて買いにいくことにした。小雨が降っていたが、面倒だったので傘は刺さずに歩いた。

深夜に田舎の道を歩くと、いつの間にか色々と景色が変わっていることに気がついた。

駄菓子屋も、散髪屋も、お化け屋敷だった廃屋も取り壊されている。通りの食品店のおっさんは2年前に癌で死んだ。お好み焼き屋のオバハンは義足になっていた。

親とよく行っていた喫茶店のオーナーが幸福の科学信者だったということも始めて気づいた。店はとっくに畳まれているが、新作映画のポスターがガッツリ貼られていた。

生活排水垂れ流しの汚い小川にはまだ蛍がいるらしい。人が少なくなったぶん、むしろ水質は良くなってるのやもしれん。

 


小学生の頃、裏の畑にクソデカい落とし穴を掘ったことがある。

竹の枝にビニールを敷き土と草を被せた簡単な作りで、こんなん引っかかるやつおらんやろと思ってそのまま帰宅したが、その日のうちに近所のばばあを生捕りにした。

落下のインパクトで足をぐねったらしく、かなりご立腹だった。おれはヤベエことをしてしまったと青ざめたが、同時にばばあが穴にはまる場面を想像してちょっと笑ってしまった。

結局ばあちゃんが謝ってくれて事なきを得た(と思っている)が、完全に死すべきクソガキだった。ごめんな、ばばあ。

そんな思い出いっぱいの畑も今では立派な国道がブチ抜かれ、当時の面影はない。

 


酒屋の自販機は、夜の11時以降は販売をしておらず、売切れの赤いランプがこれでもかというくらい灯っていた。

結局帰ってビールを飲んだ。

おかんが死んだらうちはどうなるんやろ、とふと思ったが、それ以上は何も考えなかった。

春に

誠実に生きたいとは常々思っているが、"せい"と入力すると真っ先に精子とサジェストされるiPhoneを握って暗闇の中で焼酎を飲んでいる人間は逆に誰よりも誠実だとは思いませんか?

 

明日は月曜日やがちょっとした理由で休暇を取っており、鬼繁忙期に休暇を取るためには自ら鬼となる外なく、鬼休暇簿に鬼印鑑を付いて日曜日を鬼延長し、あとはもう成り行きやなと思って気持ち悪い味がする焼酎とかいうクソ水をクソうるさい冷蔵庫の横で鬼クソ飲んでもう死ぬかーとか考えている

ところで今日ドラッグストアでポテトチップスお茶漬け海苔味とかいうアホの食い物見つけてつい買ってしまった。全然食うタイミングが無い。

 

この前実家帰ったときおかんがボケ防止と字の練習のためにと新聞の社説をノートに書き写していた。なんやこんなもんだいたいどっかの本から言葉ひっぱってきて、最後にそれに無理やりこじつけてオチつけとるだけやがな、と言っていた。よく分からんがまあなー。と返事しておいた。

ほんなら、あたいのTwitterでも書き写すか?と思ったが、親不孝すぎて笑えんかった。Twitterで一番好きなツイートは"結構キツめの勃起してる"です。とっくの昔に垢を消したツイタラのツイだが、一時期すごく仲良くしてくれたんだけどいつの間にかすっかり嫌われてしまい、疎遠になったまま気がつくとTwitterを去っていた。今でも時々思い出しては墓前で手を合わせています。仲良くしてくれてありがとうな

 

今日は花粉だかPM2.5だかの春霞が雨に流されて街がはっきりし過ぎていた。なんとなく居心地が悪かった。

散ってこその桜が咲く。みんなもちんぽとか精子とかをおもしろいと思っていててくれ

それが誠実さってもんやん。親泣かしてこ

週末

志村正彦のいる頃のものばっかりやが、もうかれこれ10年以上ずっとフジファブリックを聴き続けている。

『桜の季節』なんか最高で、平成の臭いが快い。

最近流行り廃りに弄されるのがめっきりしんどくなってきて、同じ音楽ばっかり繰り返し聴いている。そうやって年寄りになっていくんやなと思う。

というか自由とか青春とかそういうものは実はもう全部終わっていて、おれはもう懐古と自己内省を繰り返すただの老人になってしまっていた。

 

おれはいつもあの夏を思い出す。

おれは原付に跨がり、県道1919号線を時速310kmでブッ飛ばしていた。死に損ないのツクツクボウシがやたらやかましい。

このままじゃ夏の葬式に遅れてしまう。畦に彼岸花が咲いちまうぜ…そんなことを考えながら平成ゆとりヶ峠トンネルに突入すると、金木犀のにおいがギュウギュウに詰め込まれていた。

夏は死んだのだ。

おれの肺は一瞬で焼けて腐り落ち、息ができなくなって死んだ。

 

 

おれは冬が嫌いだ。

何もせずジッとしている必要があるからだ。

それは飽くなき自己内観の季節を意味する…行動なき理論は無、

何もせずとも時は経つ。

誰にも読まれなくともツイートは流れていくし、戸田恵梨香の前髪は薄くなっていく。

変わらんのは本田翼の演技力だけやんな。

 

 

しょうもないことを考えながらまた全く飲む必要のないストロングゼロを飲んだ。

夢と現実の境界が揺らぐ瞬間をただただ待っていた。

ストーブが灯油を飲み込む音がした。

同時にどこからともなく聞き覚えのある曲が聴こえてくる。

 

〽︎その街に繰り出してみるのもいい、桜が枯れた頃…

 

 

腹が減った。

生きていると腹は減る。

何もせずとも時は経つ。

油臭いボロストーブの前で震えながら、おれはただひたすら冬が過ぎるのを待っている。